研究室だより
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2003 年 05 月 02 日 号 『冬虫夏草およびアントシアニン配合飲料摂取による精神活動の活性化』 |
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●冬虫夏草菌糸体エキスとアヤムラサキアントシアニンの効能 |
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冬虫夏草は,冬期にオオコウモリガと言う蛾の幼虫に寄生し,養分を吸収して菌糸体に置き換わります。そして,夏期に子実体を発生させるという菌類の一種です。中国ではこれを採取し,漢方薬として利用してきました。発生地帯は,チベットなどの3,000メートル級の高山のみであることから,古くから中国でも「幻の秘薬」として,王侯貴族しか利用できない高価な漢方とされてきました。その効果は,滋養強壮,鎮静作用,結核,喀血,関節痛など多岐にわたります。動物実験から冬虫夏草菌糸体エキスの摂取効果は,持久力の増加,抗ストレス作用,肝臓内ATP量および血流量の増加作用,血糖値低下作用,酸化的リン酸化の促進などが報告されています。さらに長距離選手に3ヶ月間の長期摂取実験においては,血中グルコース値,ピルビン酸値,乳酸値,インスリン値が摂取前に比べて増加抑制がみられました。これらの結果は,エネルギー代謝の向上を意味していると思われ,疲労感の改善や心肺機能の向上作用も考えられます。 一方,アヤムラサキはアントシアニンを豊富に有する種に改良された,一般に紅芋と呼ばれているサツマイモの一種です。アヤムラサキアントシアニンはアヤムラサキから抽出されたアントシアニン画分を意味します。アヤムラサキアントシアニンの持つ効果としては,ラットを用いた実験で,脳および耳介での血流量の増加,低酸素下での延命効果,血管弛緩活性,抗酸化性,肝臓機能改善効果等が確認されています。 |
●冬虫夏草とアントシアニン配合飲料の摂取実験について | |||||||||||||
従来の研究報告を踏まえて,冬虫夏草菌糸体エキスにアヤムラサキアントシアニン画分を配合することによって,脳血流の増加による学習能力向上,自律神経系バランスの向上,精神活動の亢進,および精神疲労回復効果が期待されます。そこで本研究では,この冬虫夏草とアントシアニン配合飲料またはプラセボ飲料を30日間連続摂取し,その前後に軽い運動負荷試験を行い,動的な健康状態と精神機能について効果を比較・検討しました。 2.方法 被験者は,48歳から68歳の健常者63名(男性21名,女性42名,平均年齢59.14歳)に対し,次のような検査を行いました。 摂取飲料として,冬虫夏草エキス(素材重量2,000mg)およびムラサキイモアントシアニンエキス(素材飲料271mg)を含有する飲料(120ml)(ACT群30名)またはプラセボ飲料(CON群33名)を1日2本,30日間連続摂取しました。検査は,30日間の摂取前後に2回,軽い運動負荷による自転車回転運動を行ってから,血液検査,尿検査,ATMTによる測定を行いました。 検査項目は,血液検査(2・3-DPG)を運動直後に,尿検査(夜間尿によるカテコールアミン3分画)とATMT(タッチディスプレイ内蔵のブラウン管に,ランダムに配置された1~25までの数字を順に出来るだけ早く押していくプログラム)を運動終了の回復後に計測しました。 3.結果 血液検査からヘモグロビン中の2・3-DPGを見ると,ACT群において,摂取前の平均11.65(μmol/ml)から,摂取後の11.84(μmol/ml)へと上昇が見られました。 尿中のカテコールアミン3分画は,ACT群において,摂取前は平均828.7(μg/l)であった値が,摂取後,620.4(μg/l)に減少しました。さらにドーパミンの値も,摂取前の平均729.3(μg/l)から摂取後530.6(μg/l)と有意な減少を示しました(図1)。 ATMTにおける課題の成績は,覚醒度や年齢と強い相関を持ち,知識を必要としない,「頭の回転」や「精神疲労」の精神機能測定用に開発されたプログラムです。課題は,1回に3種類の作業があり,それぞれの数字探索に要した反応時間を測定しました。その結果,数字の位置が変わり一番難題であるステージ3において,ACT群は摂取前より摂取後に418.1(msec)の反応時間短縮となりました(図2)。CON群は,288.9(msec)の短縮に過ぎませんでした。 4.まとめ 血液成分からヘモグロビン中の2・3-DPGを見ると,ACT群の値は上昇しました。これは酸素とヘモグロビンの結合解離に有効となり,酸素利用効率が向上した結果と思われます。つまり,多くの酸素を利用することによって運動能力の向上にもつながるでしょう。またACT群はCON群に比較して,交感神経系の指標と言われている,尿中カテコールアミン3分画,特にドーパミン値が運動後に減少しました。これは,ACT群は運動後の回復期において,交感神経が抑制され,副交感神経が活発に働くようになったと思われます。ATMTの成績を見ると,ステージ3の総探索反応時間が短縮したことから,「短期記憶力」や「精神疲労」の向上になったと考えられます。 以上の結果から精神活動への効果を考察すると,冬虫夏草とアントシアニン配合飲料の摂取による運動負荷後の回復時に,精神的リラックス状態が現れやすくなったようです。さらに,精神疲労の軽減化にもつながったことも示唆されました。 本研究は,平成14年度の地域先導研究成果の一部です。
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