研究室だより
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2003 年 04 月 04 日 号 『科学的研究 -富山産昆布パックのもつ強い温熱効果-』 |
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タラソテラピー(海洋療法)について | ||||
タラソテラピー(海洋療法)は、海と海洋性気候、さらには海藻や海水なども含めた海の恵みを総合的に活用して、心身に総合的に作用する治療と健康増進のための方法であるが、ギリシャ医学の時代から行なわれてきた伝統的な治療でもある。この名称は、ギリシャ語のタラサ(海:Talassa)と、フランスあるいはドイツ語のテラピー(治療:Therapie)を合成した用語で、命名者は、フランス人医師ボナルディエール(1867年)と言われている。現在ではフランス厚生省は、医学の一部として定義つけている。そしてフランスでは、医師と専門のタラソテラピストが、個人個人のカルテに基づいて処方をしているという。 <海洋療法(タラソテラピー)の分類1)> (1)海水をつかった水治療: (2)海藻や海泥を使う治療:アルゴパック(写真参照)、ファンゴパック (3)海産動物を使う動物介在療法:イルカ療法 (4)海洋性気候を使った療法:保養地医療
海藻を使った海藻パックは、上述の(2)に含まれる温熱療法である。我々は、海藻パックの素材として、富山で作られる昆布かまぼこの切り身を使い、新たな海藻パックを創生した。そして、その海藻パックと従来のフランス製海藻パック及び単なるサウナの温熱効果を比較した。 鹿児島大学の研究によると、温泉やサウナなどは、温熱効果による末梢血管拡張を起こして心臓の後負荷を軽減させ、心不全を改善する効果があることが報告されてきた。さらには、温熱による血管拡張作用が、NO(血管拡張物質)の生合成を促進することで、血管内皮細胞の機能を向上させ、それが生活習慣病を予防することにつながることも言われている2-4)。そのように温熱作用をもつ治療法は、心不全や生活習慣病に効果をもつことが推定されるのである。 海藻パックも、このような温熱効果をもつ治療法に含まれる。我々は、今回新たに創生した海藻パックの温熱効果を比較した。我々は。海藻麺やかまぼこを作る時にできる昆布の安価な切り残りを利用して、健康効果をもつ新たな海藻パックを開発した。これは、昆布の切り身に炭酸ナトリウム2.5%添加してペースト状にし、オリーブオイルを4%、濃縮深層水を添加して、Na濃度が1.2%としてものである。この新たな海藻パックは、従来の海藻パック(アルゴパック)と比較して、皮膚への刺激性がなく、保湿性も優れたものであった。 |
当センターにおける研究成果について | |||
<研究方法> 被験者:健常成人14名(29〜49歳:37.9±5.9歳、女性11名、男性3名)を対象にして、臥位にて、5分間の安静の後、各種海藻パック全身(胸腹部、右上肢、両下肢全体)に5分間かけて塗布し、5分間の前処置の後15分間、遠赤外線サウナ(フジ製)で加温した。その前、最中、後における生理的変化を測定して、各種海藻パック間で比較した。 測定項目:(1)皮膚刺激性と日本語版STAI(不安度検査)、(2)体重、(3)皮膚保水性検査、(4)皮膚温(上肢前腕部橈側皮膚と下肢前頚骨筋部)、(5)脳波、(6)断続的血圧測定、(7)心電図、(8)脳循環(中大脳動脈血流速度とNear Infrared Spectroscopyによる前頭葉底部表面ヘモグロビン濃度変化を記録した。)(9)呼気ガス分析 海藻パック実験の種類:(1)普通日本で広く使われているアンブロップ・モンマンセル社製アルゴパック(紅藻類のリトタムヌ40%+レミナリア40%、NaClとカオリンを含有する粉)70gに対して83.3mlの深層水(富山湾深層水)を溶解したものを臥位で前胸部、右上肢、両下肢に塗布する実験。(2)前述の昆布を炭酸ナトリウムで溶かし、オリーブオイル4%と濃縮深層水を添加し、Na濃度1.2%とした昆布パックを同じ場所に塗布する実験。(3)何もパックしないで同じ遠赤外線サウナに同じ15分間だけ入る実験。(4)同じ時間だけ臥位を保つ実験。 <結果と考察> 皮膚刺激性は、従来のアルゴパックでは、14例中13例で皮膚がヒリヒリする感じを得たが、新たな昆布パックでは1例のみであった。保湿性も昆布パックでは高いものであった。皮膚温の変化は、サウナだけを受けた実験と、2種類の海藻パックを受けた実験とで差はなかった。また血圧など全身循環に関しても有意な差はなかったが、前頭葉底部や僧帽筋の血液量を示す近赤外分光光度計の結果では、 海藻パック2種類では、単なるサウナより明らかに循環促進効果が高いことが示されたが、海藻パックの中では、昆布パックが従来のアルゴパックよりも、有意に血液量の増加が高いものであった(図1)。 以上の結果から、以下の2点が結論される。 (1) 海藻を塗布して加温することは、塗布しないで加温するよりも、温熱効果が明らかに高いこと。 (2) 富山産の新たらしい昆布パックは、従来のフランス製アルゴパックよりも、皮膚刺激性が少なく、皮膚保湿性も高く、さらには、温熱効果も高い。 新たな富山産昆布パックは、温熱作用を介して、心不全や生活習慣病に効果をもつ可能性がある以外に、前頭葉や僧帽筋において血液循環を促す効果が高いことから、筋肉の疲労をとる効果や脳機能への影響などもあること推定される。但し、その仕組みに関しては、オリーブオイルの存在が関与していることも考えられるが、今後の研究に期待される。 日本ではエステで行われる慰安的なトリートメントと思われている海藻パックであるが、今後の研究によっては、生活習慣病の予防や治療、運動選手の日常的なケア、麻痺性疾患のリハビリテーションに応用できる可能性があろう。我々休養グループの目指すことは、このように伝統的に行われてきた治療法を研究し、改良することで、安全で有用性の高い新たなシステムを創生することである。
赤色が、酸化ヘモグロビン濃度の、青色が還元ヘモグロビン濃度、黒がヘモグロビン総量の変化を示す。 サウナだけでは、あまり上昇しないが、海藻パック特に昆布パックでは、血液量の増加が著しい。 対照実験以外の実験では、皮膚の表面温度には差がなかった。 <謝辞> 本研究は農林水産省の都道府県農林水産関係試験研究事業の一環として行われた研究である。 <参考文献> 1)志村秀明著『タラソテラピー概論』現代書林、東京、1996年。 2) Ikeda Y. et al, Repeated Thermal Therapy Upregulates Arterial Endothelial Nitric Oxide Synthase Expression in Syrian Golden Hamstars, Jpn Circ J 65:434-438,2001. 3)IMAMURA M. et al, Repeated Thermal Therapy Improves Impaired Vascular Endothelial Function in Patients With Coronary Risk Factors. J Am Coll Cardiol 38;1083-1088,2001. 4)Tei C, Thermal therapy for congestive heart failure: estimation by TEI index. J Cardiol 37(Suppl 1);155-159,2001.
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