研究室だより
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2002 年 12 月 28 日 号 『アミノ酸を摂って効果的な運動を』 |
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身体活動のエネルギー源 |
人の体内には脂肪が貯えられていますが,一般的な認識としては「体脂肪は悪者」とみられがちです。しかし,身体活動に必要な貯蔵エネルギー源は,脂肪組織中の中性脂肪が最も多く使われ,筋肉・肝臓のグリコーゲンや血液中のブドウ糖などの炭水化物はわずかです。![]() 身体活動のエネルギー源に使われる物質を見ると,炭水化物からは短時間で産生できるのに対して,脂肪から産生するためには時間がかかります。どちらが使われるかは,運動強度や運動の持続時間によって違います。図1のように長時間持続できるような比較的軽い運動強度の場合は,血中の脂肪酸が使われる率が高くなりますが,運動強度が上がるにしたがって,炭水化物の利用が増加することがわかっています。しかし高強度の運動であっても,また運動開始時点からすぐに脂肪を使うことができれば,炭水化物の節約をすることになり,活動の持久性が高められると考えられます。つまり体内に貯蔵されているエネルギー源である脂肪を効率的に利用する方法は,肥満予防にも通じ,身体活動において有効な手段となるわけです(表1)。 ![]() |
アミノ酸について | |
身体を構成するたんぱく質は毎日合成と分解を繰り返しています。その体内のたんぱく質は,約20種類のアミノ酸が色々な順序や組み合わせで結合しています。ラットの実験によれば,必須アミノ酸の一つであるリジンが欠乏した状態が続くと,ラットの成長が抑制されることがわかっています。このように体内たんぱく質を合成するために必要なアミノ酸を,食物から摂る必要があります。 身体活動の実施によって,筋肉,腱,靭帯,骨などの結合組織に障害を起こしたり,中枢神経性疲労などを生じることがあります。アミノ酸は障害や疲労からの回復効果を示し,身体の色々な機能を支える役目をしていることがわかりました。競技者やスポーツ愛好者,さらに一般の人達の間でもアミノ酸サプリメント(補助食品)が使用されるようになりました。その効果例として,脂肪燃焼アミノ酸と呼ばれるリジン,プロリン,アラニン,アルギニンは,体内の脂肪を効率的に燃やす働きがあります。さらにアルギニンは,脂肪燃焼効果のほかにも筋肉を強くする働きが認められている成長ホルモンの合成に関与しています。またロイシン,イソロイシン,バリンは,筋肉に蓄えられるアミノ酸で長時間の運動時には筋肉でエネルギー源として使われ,筋肉疲労を軽減します。また非必須アミノ酸のグルタミン酸もエネルギー代謝に重要な役割を果たし,腸管粘膜の消化吸収に必要なエネルギー源であることがわかってきました。 そこで,当国際伝統医学センターではアミノ酸混合液を摂取することによって,身体にどのような影響を与えるかについて実験を行いました。 実験は,アミノ酸混合液かプラセボ(偽薬)かのいずれかを摂取して,20分後に運動負荷実験を開始しました。安静3分の後,トレッドミルによる歩行,または走行をそれぞれの被験者の安静心拍に合わせて2種類の運動強度で合計1人4回行いました。運動時間は,軽めの運動強度(40%HRmax)の場合は60分間,少し強めの運動強度(60%HRmax)の場合は30分間行いました。 ![]() 結果は,一般の人と運動選手に分けてみると,運動強度によりエネルギー代謝に違いがあることがわかりました。図2は一般人が,少し強めの運動強度(60%HRmax)を行った場合の換気量について,アミノ酸混合液摂取とプラセボ摂取を比較したものです。運動選手の60% HRmaxの運動の場合は,アミノ酸混合液とプラセボ摂取による顕著な違いはありませんでした。一般人の60% HRmaxの運動の場合は,アミノ酸を摂取した方が,換気量を増やしてエネルギー代謝が高まりました。反対に,図3は運動選手の軽めの運動強度(40%HRmax)を示していますが,アミノ酸混合液摂取によって換気量は増加し,エネルギー代謝の上昇が見られました。 今回の結果から,一般人も運動選手もアミノ酸混合液を摂取することは,エネルギー代謝の上昇になりました。特に運動選手は,軽い運動の場合にプラセボに比べてエネルギー代謝が高まりました。反対に運動選手が強い運動を行った場合は,エネルギー源を節約して持久力向上に役立てることが考えられます。そしてアミノ酸混合液摂取によって,運動開始前の安静時においても,エネルギー代謝の上昇が見られたことから,アミノ酸混合液を摂取するだけでも,呼吸代謝が活発に働くことが示唆されました。運動前の摂取によって,運動能力の向上効果が表れる可能性があり,競技成績や記録の向上にもつながると考えられます。 また運動習慣のある人はない人に比べて,運動を始めてから脂肪が燃え始めるまでの時間が早いと言われています。今回の結果からも,運動習慣のある被験者は低い運動強度でも運動開始直後からエネルギー代謝が活発に働くことがわかりました。そして日頃の運動習慣のある人達は,弱い運動でもアミノ酸摂取の効果を高めることができるように思われます。
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