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国際伝統医学センター

研究室だより

伝統医学へのとびら-研究室だより
2002 年 10 月 01 日 号
『東洋医学の健康運動』
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気功やヨーガの腹式呼吸(調息)
図1 古代の八段錦吐納(気功)
図1 古代の八段錦吐納(気功)
 中国医学中の気功体操(運動)を調べると、ゆったりとした静かなストレッチ的な動作が強調されている。気功は別称”吐納( とのう ) ”と呼んだように息を吐くことが主体となり、手足を伸ばす時に息を吸い、手足を曲げて体に近づける時に息を吐き出していく。後者の運動時間が前者の時間よりも約8~10倍も長い。すなわち気功中に息を吐き出し続けている運動が強調され、それも長時間にわたるストレッチ運動である。さらに荘子の言葉に”吐故納新( とこのうしん ) ”、”吹句呼吸( すいくこきゅう ) ”がみられるように、息を吐くことで新鮮な空気交換に役立ち、声を発することで呼吸を強めることを示している(図1)。

 インド医学中のヨーガも気功と同じように息を吐き切ることを強調する。マハット・プラナヤマ(完全な呼吸法)の運動では、息を吸う同じリズムで息を吐き出し続け、全身の力を抜くことに努める。また、ハタ・ヨーガの方法にもプラーナ・アーヤマ(調息法)がみられる。肺の中の残気量を排出し、息を少しずつ長く吐くことを教えている。さらにパドマ・アーサナ(蓮華座)において、坐禅のように足を深く組むポーズがみられるが、口呼吸を強調し、舌を上唇につけて吐き出す呼息量を調節している。

 いずれも東洋医学の中にみられる健康づくり法で、すべてが息を吐くことを教え、吸うことは反射的な無意識下のままにしている。息を吐くことは腹式呼吸と口呼吸に通じる。東洋の健身術は唯心論的な背景がみられ、腹式呼吸(運動)も心情をコントロールする手段として使い、息を吐くことで気持を鎮め、ゆったりとした大陸的な心情を醸し出す。特に高齢者の腹式呼吸は健康運動として位置づけられ、心身をリラックスする処方となっている。その結果、調心、調身、調息の3効果が現れ、現在もいきいきと健康づくりに役立っている。
腹式呼吸運動の効果
図2 腹式呼吸時の横隔膜の動き(ストレッチ)
図2 腹式呼吸時の横隔膜の動き(ストレッチ)
 腹式呼吸では息を長く吐き出し続けることが強調され、前後・左右・上下の3方向からの胸隔の拡大と縮小運動によって肺呼吸量が調節される。特に上下運動は横隔膜(筋肉)の上方への拡張ストレッチによって息が吐き出される。腹式呼吸は胸式呼吸と異なって横隔膜の静的なストレッチ運動ともいえる。その結果、胸式呼吸よりもより多くの息が吐き出され、肺内の残気量(約1リットル)も交替され、新しい空気と入れ替えられる。こうした腹式呼吸運動の運動生理学実験によって次の4つの効果が得られた(図2)。

(1)
呼吸筋、特に横隔膜の筋紡錘が引き伸ばされて、視床下部に信号が伝達される。その結果、脳内ホルモン(β-エンドルフィンなど)が分泌されて鎮静化された精神状態を醸し出した。これが腹式呼吸と心の癒しとの関連である。

(2)
吐くことが長時間持続するとプロスタグランジンI2 (酵素)が分泌され、血圧が降下した。さらにNK細胞(免疫体)がより活性化されて、疾病予防との関係資料が得られた。

(3)
朝・夕2回(約10分)の腹式呼吸運動実施によって、自律神経バランス(CVRR)が高まり、特に副交感神経の働きが活性化された。その結果、内臓諸器官の動き(ぜん動運動など)が活発になり、消化・吸収・排泄機能も高まった。

(4)
腹式呼吸を取り入れると心電図のRR間隔変動スペクトル中の高周波数帯域(0.15~0.4Hz)のパワー密度と脳波のα波含有率が増加した。これは副交感神経と落ち着いた高次脳神経活動の亢進を示唆した。

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