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平成22年度 健康講話 12月


メタボリックシンドロームからの脱出

富山県健康増進センター所長 大江 浩
医師    

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の診断基準は平成17年4月に出ました。腹囲(男性85cm以上、女性90cm以上)又は内臓脂肪面積100平方cm以上で、@脂質(中性脂肪150mg/dl以上又はHDL40mg/dl以下)、A血圧(収縮期130mmHg以上又は拡張期85mmHg以上)、B空腹時血糖(110mg/dl以上)のうち、2項目以上を満たせば該当、1項目満たせば予備群とされました。平成18年県民健康栄養調査によると、成人男性の2人に1人、成人女性の4人に1人がメタボリックシンドローム該当又は予備群でした。

 メタボリックシンドーム対策が重要なのは、
1)肥満者の多くが高血圧、糖尿病、脂質異常等の複数の危険因子を併せ持っていること
2)危険因子が重なるほど脳卒中、心疾患を発症する危険が増大すること
3)生活習慣を変え内臓脂肪を減らすことで、危険因子が改善すること
が挙げられます。内臓脂肪が蓄積すると、動脈硬化を抑制するアディポネクチンの分泌が低下すること等、メカニズムが科学的に解明されてきています。

 国民生活基礎調査によると、要介護の原因の第一位が脳卒中です。今後ますます、その予防が重要になりますが、リスクを軽減するためのメタボリックシンドローム対策は不十分といわざるを得ません。実際、国民健康栄養調査では、調査するごとに糖尿病疑い者数が増えています(平成19年調査では全国で2210万人)。慢性透析患者数が全国で30万人近くになっていますが、原疾患として糖尿病腎症が第一位です。人工透析一人当たりの年間医療費は約550万円といわれています。医療費適正化のためにも、メタボリックシンドローム対策を推進しなければなりません。平成20年3月に策定された富山県医療費適正化計画では、平成24年度までにメタボリックシンドロームの10%減少が目標に掲げられています。

 平成20年度から、医療保険者に対して、特定健診(いわゆるメタボ健診)が義務付けられました。対象は40〜74歳の被保険者・被扶養者で、勤務者では労働安全衛生法による事業所定期健診にメタボ健診の項目が含まれています。健診結果によって保健指導の対象が階層化され、動機付け支援(原則面接1回)、積極的支援(3ヵ月以上の指導)の特定保健指導が行われています。特定健診制度が画期的なのは、ア)全国共通様式で電子データ管理され、分析評価が容易になったこと、イ)治療中の方も健診対象でコントロール状況が評価できること、ウ)特定健診・保健指導の実績等に基づいて保険者からの後期高齢者支援金にインセンティブが設けられたこと等が挙げられます。
 平成21年度の県内市町村国保の特定健診受診率は42.2%(全国31.4%)、保健指導対象者割合は14.1%(全国14.0%)、動機付け支援終了率は19.8%(全国24.5%)、積極的支援終了率は14.3%(全国13.6%)です。富山県医療費適正化計画では、平成24年度の市町村国保の目標値として、特定健診受診率65%、特定保健指導終了率45%を掲げており、さらなる推進が必要です。

 富山県健康増進センターでは、専任の保健師・管理栄養士により、毎年700名以上の特定保健指導を実施しています。特徴として、@保険者の了解があれば人間ドックに引き続いて特定保健指導の初回面接を実施していること(当日健診検査結果が判明)、A職場に出向く巡回面接を実施していること、B電子メールを活用した継続的な指導を実施していること、C他機関で健診受診後の保健指導を実施していること、Dとやま健康パークでの運動指導の組み入れが可能なこと等が挙げられ、特定保健指導終了者では、体重や腹囲が有意に低下し、検査数値が改善しています。
 しかし、特定保健指導は、血糖値や血圧が高くても、肥満がなく、基準に達しない方は対象となりません。また、医療機関で治療中の方も対象となりません。市町村国保の特定健診結果では、糖尿病治療を受けている方の1割以上が要入院レベル(HbA1c8%以上)です。これは、特定保健指導以外に、各保険者や保健医療連携の取り組みが必要なことを示しています。
 そして、何よりも、1)健診を受けて自分のメタボ度を知る、2)日頃の生活習慣(食事、運動、喫煙、飲酒等)を改善する、3)医療機関にかかっている場合、自分もチーム医療の一員であるという一人ひとりの認識と行動が不可欠と感じます。
個人の健康は、家族の健康、地域の健康につながります。



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