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平成22年度 第1回 健康医学講演会 7月


中高年にやさしい漢方治療

富山大学大学院医学薬学研究部 教授 嶋田 豊



1 日本の漢方医学の歴史

 日本の漢方医学の基礎である中国の医学は、黄河文明の中で発生し、3000年もの歴史があります。多くの経験を積み重ね、医療として体系づけられてきました。日本には、6世紀頃の仏教とともに伝来し、8世紀の中ごろには唐から鑑真が来日し、多くの漢方薬が持ち込まれました。平安時代に遣唐使が廃止された後は日本独自の発展を遂げるようになり、984年には丹波康頼によって日本に残る最古の医学書である「医心方」が書かれています。江戸時代には、オランダを通して入ってきた西洋医学が「蘭方」と呼ばれたのに対して、中国伝来の伝統医学は「漢方」と呼ばれるようになりました。ところが、明治時代に入り、新しい医師免許制度ができると西洋医学が主流となり、漢方は衰退していきました。しかし、第二次世界大戦後、再び漢方が見直されるようになり、医療用漢方製剤が薬価収載されたことを機会に、漢方への関心がさらに高まり、現在では医師の7〜8割が何らかの形で日常の診療に漢方薬を使っています。


2 漢方薬とは

漢方薬は、複数の生薬を組み合わせたものです。例えば、風邪薬として知られている葛根湯は、葛根、麻黄、桂枝、芍薬、生姜、甘草、大棗の7種類の生薬から成り立っています。医療用の漢方薬には、生薬と漢方製剤があります。医療用の生薬の最大の利点は、一人ひとりに応じたさじ加減ができることです。その一方で、自分で煎じなければならないので、手間がかかります。医療用の漢方製剤は、製薬メーカーが製造するもので、煎じる手間がかからない一方で、種類が限られていて、微妙なさじ加減ができません。


3 漢方での診察について

漢方医学では、独特な診察と診断を行っています。漢方での診察の方法は望診、聞診、問診、切診の四つに分類されるため、「四診」と呼ばれます。漢方医学の概念のひとつに『陰陽』があります。「陽証」と「陰証」という二つのタイプがあり、ひとことで言うと、「陽証」は暑がり、「陰証」は寒がりの冷え性です。また、『虚実』も大切な概念で、「実証」と「虚証」という診断があります。一般的に、「実証」はがっちりした体格で、気力があって疲れにくく、「虚証」は虚弱な体質できゃしゃな体格で、気力がなく疲れやすいといった特徴があります。また、『気血水』という概念もあり、「気虚」「気鬱」「気逆」「血虚」「瘀(お)血」「水滞」といった診断があります。さらに「肝」「心」「脾」「肺」「腎」の『五臓』の概念もあります。これらの漢方医学の概念に基づいた診断によって、用いる漢方薬を決めていきます。


4 中高年にやさしい漢方治療について

中高年に見られやすい、例えば、「冷え」、「虚弱」、「更年期障害」、「胃腸障害」などのさまざまな症状や、生活習慣病の予防にも漢方治療が役立つ場合があります。漢方では「未病を治す」という現代の予防医学にもつながる考え方が昔からいわれており、すでにかかった病気を直すだけでなく、日頃から病気にかからないようにすること、つまり「養生」を重要視しています。





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